経済・ビジネス

生成AIに食い荒らされるオールドメディア、公取委はグーグルを「独禁法違反」に問えるか

2026年6月3日


<span>生成AIに食い荒らされるオールドメディア、公取委はグーグルを「独禁法違反」に問えるか</span>
ある全国紙幹部は「生成AIに収奪される日々だ」と語る(C)Rawpixel.com / shutterstock

新聞やテレビを中心とした既存のマスメディアにとって、生成AIによる記事の「無断学習」と、それによる「ゼロクリックサーチ」の拡大は死活問題だ。日本政府が知的財産の保護や透明性のある開発を呼び掛ける中、大手紙はAI事業者がコンテンツを「略奪」していると訴訟に踏み切った。公正取引委員会の調査では、検索エンジンによるクローリングが独占禁止法上の「取引」に該当するか否かが焦点となる。

 生成AI(人工知能)の急激な発達は、我々の生活を根底から変えつつある。テキストだけでなく画像や動画、音声に至るまで自由自在に生成し、インターネット上には有象無象のコンテンツが溢れかえっているが、そのあおりを受けて危機に瀕しているのが、新聞・テレビに代表される既存のマスメディアだ。背景には、強大な力を持つデジタルプラットフォーマーの掌で報道機関が踊らされる、いびつなウェブのビジネス構造がある。「オールドメディア」に活路はあるのか。政府による規制の実効性、海外の動向も含めて考察する。

グーグル検索から報道各社への流入は2年で3割減

 本題に入る前に、生成AIを巡る直近の動きを簡単におさらいしてみたい。

 一大転換点は2022年11月にサム・アルトマン率いるオープンAIが世に送り出した、対話型AIサービス「ChatGPT」の大流行だった。その後もグーグルの「Gemini」、アンソロピックの「Claude」といった類似サービスの提供が次々と始まり、スマートフォンやアプリに実装されていった。

 次いで24~25年に起きたのは、ウェブ検索結果などの外部情報をAIが読み込み、コンテンツを生成する「検索拡張生成(RAG)」の爆発的普及だ。AIの欠点であるハルシネーション(嘘の回答)を軽減し、鮮度の高い情報をリアルタイムで取り込めることから、業務効率化や調査、データ活用などに文字通り革命をもたらした。

 そして26年、ユーザーが細かい指示を出さなくてもAI自身が自律的に検索・調査・分析を行ってくれる「AIエージェント」が注目を集めている。当然、AIそのものの学習能力も飛躍的に向上。今や生活インフラの一部となった感がある。

 生成AIにとって急激かつ絶え間ない進化の歳月だったこの3年間。だが、ある全国紙幹部は「こちらにとっては、絶え間なく収奪され続ける歳月だ」と憤る。

その理由は、大きく分けて2つある。1つは、AIによるコンテンツの無断学習。特に生成AIの普及初期、多大な取材コストをかけて世に送り出した新聞社や通信社が蓄積してきた膨大な記事コンテンツは、AIの「学習用データ」として何の対価も払われることなく、一方的に利用され続けてきた。

 もう1つは、RAGにより複数のコンテンツを要約するAI検索サービスが広がった結果、いわゆる「ゼロクリックサーチ」が拡大したことだ。検索結果の要約・加工のみでユーザーが満足してしまい、「元ネタ」である報道各社のサイト上の記事を閲覧しなくなった。実際、調査会社ヴァリューズの調査推計によると、25年10月におけるグーグル検索からの流入数は、2年前の同時期と比較して33%、前年比でも16%、それぞれ減少した。検索結果のクリック率も2年前から8ポイント低下し、36%にまで落ち込んでいる。

「日本版グーグル」を生むための政策が裏目に

 無断学習とゼロクリックサーチは、いずれも報道機関からすれば収益構造を根底から揺るがす事態だ。だがなぜ、こうした状況が生まれたのか。

 まずAI学習に関しては、2018年の著作権法改正で「著作物の非享受目的の利用」を認める条文が追加されたことが大きい。AIによるコンテンツ(著作物)の学習は、人間のように著作物そのものの思想・感情を「鑑賞して楽しむ(享受する)」ことを目的としていない。このため、AIが報道機関などの著作権者の許可なく、著作物(記事)を学習できる根拠とされてきた。
この条文の導入目的は、AI開発や産業競争力を高めることで、グーグルのような「日本版検索エンジン」を育成するためを意図したものだとされた。ただ、皮肉にも生成AI事業者によるコンテンツのフリーライド(タダ乗り)を許す、広大な「抜け道」となってしまっているといえる。

 加えて、報道機関が直面している最大の不条理は、検索市場において圧倒的な支配力を持つグーグルなどの巨大テック企業による「実質的な強制」にある。

 ネット上では「クローラー」と呼ばれるプログラムがウェブ上のサイトをくまなく巡回し、画像やテキスト、動画などのデータを収集している。そうして集めたデータを検索結果に応じて瞬時にユーザーに提示するのだが、こうした検索用クローラーとAI学習用のクローラーの制御が、未分化な状態になっている。このため、報道機関などがAIによる学習や記事の無断要約を拒否すれば、通常の検索結果からも自社のコンテンツが消える(検索にかからなくなる)。つまり、検索からの流入がなくなるという状態になっているのだ。

 また同年12月には、ユーザーの検索履歴などに基づき、興味のありそうな記事や動画を表示するグーグルのサービス「グーグルディスカバー」のAI要約表示が、日本でも開始された。全国紙のデジタル担当者は「記事が『ディスカバー』に採用されると、自社サイトのPV(ページビュー)が跳ね上がる。複数社の記事を寄せ集めたAI要約が表示されてしまえば、自社サイトへの流入が激減してしまう。まるでグーグルによる略奪だ」と嘆く。

朝日・読売・日経は法廷闘争へ

 こうした状況に、マスコミ業界の危機感は強まる一方だ。

 全国の新聞社・通信社・放送局で構成される日本新聞協会は2023年以降、AIに関するものだけで計16本もの声明や見解、意見を表明。著作権者の許諾を得ずに対価も支払わないAI開発事業者によるフリーライド状態を強く批判し、政府に対し著作権法見直しやクローラーによる収集を拒否するプログラム(ロボッツテキスト)の効力を担保する法整備などを要望している。

 大手各社による具体的な法廷闘争も始まっている。25年8月には読売新聞、朝日新聞、日本経済新聞の3社が、無断でコンテンツを流用したとして米AI事業者のパープレキシティを提訴。同年12月には毎日新聞や産経新聞、共同通信も同社に抗議書を送っている。

 こうした中で最近注目されているのは、プラットフォーマー(PF)とメディアなどのパブリッシャーの間にあるビジネス上の非対称性を解消するのに、独占禁止法における「優越的地位の濫用」に当たるかという議論だ。

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