「今回の決算内容を見て、現場・現物・現実を直視する“ホンダウェイ”は死んだと思いました。現場が何を考え、顧客は何を求め、市場で何が起きているのか。ホンダの経営哲学を貫く、これらへの洞察や関心は失われてしまったようです」
こう語るのは、ホンダの元最高幹部の一人である。
5月14日にホンダが発表した2026年3月期連結決算が波紋を広げている。
最終損益は4239億円の赤字(前期8358億円の黒字)となり、1957年の上場以来、初の最終赤字に転落したのだ。
自動車評論家の国沢光宏氏によれば、
「売上高こそ前期比0・5%増の約21兆円でしたが、本業の儲けを示す営業損益は前期1兆2134億円の黒字から一転、4143億円の赤字となりました。EV関連損失が今期1兆5778億円、来期も5000億円が見込まれ、極めて深刻な事態に陥っています」
三部敏宏社長は今回の決算について、
「将来に損失を残さないため経営の意思として計上した。重く受け止めている」
と会見で述べ、巨額赤字の要因となった“EVシフト”に話が及ぶと、「いったん取り下げたい」と撤回を表明した。
「三部氏は21年4月に社長に就任すると“脱エンジン”を掲げ、40年までに新車販売をEVとFCV(燃料電池車)のみにすると宣言しました。ところが第2次トランプ政権の誕生によって、主力の北米市場でEV優遇策が次々と廃止され、次世代EVの開発中止に追い込まれた。結果、計2兆円ものカネをドブに捨てる形になったのです。顧客ニーズや趨勢を見誤っただけでなく、周囲の反対の声を押し切りEVシフトを進めたトップの責任を問う声は高まるばかり。6月に開催予定の株主総会は大荒れ必至です」(国沢氏)
当の三部社長は「今の状態で辞めるわけにいかない」と辞任を否定したが、実は大物OBも巻き込んだ“三部下ろし”が社内で繰り広げられていると明かすのは、同社関係者である。
「決算発表に先立つGW前のことです。5代前に当たる川本信彦元社長(90)が三部さんに“責任を取るべきではないか”と直接進退を問うたといいます。もう一人、雨宮高一元副社長(85)の名前も挙がっていますが、一時代を築いた大先輩からの直言にもかかわらず、三部さんは首を縦に振らなかったそうです」
ホンダの第4代社長・川本氏の在任期間は90~98年。一方の雨宮氏は97年から8年間、ホンダの副社長を務めたほか、ホンダアメリカ社長も歴任した人物だ。
「内乱状態にある」
経済ジャーナリストの井上久男氏が言うには、
「川本さんは現役時代、“技術のドン”としてホンダに君臨した大物経営者です。対する雨宮さんは営業部門の責任者を長く務めた“事務屋のトップ”とも言える存在。実力者として知られる二人ですが、川本さんに関しては過去にも似た行動を取ったことがあります。ホンダが主力車フィットの大量リコールなど品質問題で揺れた14年、当時の伊東孝紳社長に“責任を取って辞めるべきだ”と迫り、実際に引責辞任へと追い込んだ逸話は有名です」
前出の関係者が補足する。
「ホンダには“OBは経営に口を出さない”との不文律がありますが、川本さんは例外です。何かあれば相手がトップだろうと忌憚なく物を申すなど、いまも経営に睨みを利かせています」
そんな畏怖の対象でもある大物OBから辞任を促されたにもかかわらず、三部社長が突っぱねた事情について、
「21年に指名委員会等設置会社へ移行してから、ホンダの取締役人事は指名委が選任する形になっています。すでに2月の段階で4月以降の新経営体制が発表され、続投は既定路線でした。つまりOBの進言で、簡単には人事が覆らないシステムとなっていることが、三部さんの強気の背景にある。委員会の中でも三部支持を強く打ち出したのが、委員長であり、三部さんに代わって新たに取締役会議長に就任する國分文也氏(73)です」(同)
大手商社・丸紅元会長の國分氏がホンダの社外取締役に就いたのは20年。翌年、三部氏が社長に就任したのを機に、指名委員会委員長に抜擢された。
「三部さんがその見識を高く買い、一方の國分氏も“応援団長”として三部さんを支えてきたという関係です。社外取締役とはいえ、社内に隠然たる影響力を持つ反面、“車のことは何も分かっていない”と評する声も少なくありません」(同)
その國分氏に三部社長続投の理由を聞くと、
「赤字になったから“クビだ”と言われたら、経営者は誰もリスクを取りません。好き嫌いでなく、“ホンダにとって何が最善か?”を考え、私個人でなく、委員会として決定したものです」
OBが「責任を取れ」と迫った件については、
「業績が悪くなると、色々な雑音が入ってくるのはどこの会社も同じ。そういうのはあって当然でしょう」
と意に介する素振りを見せなかった。それは「三部社長も同じだ」と話すのはホンダの元幹部である。
「OBから進言を受けた後、三部さんは親しい役員らを前に“会社はいま内乱状態にある。それを平定できるのは自分しかいない”と言い放ったといいます。社内の不満勢力がOBなどを使って“三部下ろし”を画策していると考え、鎮圧に動いたのです」
トカゲの尻尾切り
目下、自分に異を唱える者は「反乱分子」と見なし、強権的な統治を進めているという三部社長。それに対する社内の様子を前出の関係者が明かす。
「近年の社長任期6年に倣えば、続投の意向を示す三部社長にはまだ1年程度の任期が残されています。そのため“いま下手に声を上げれば排除されるだけだ”と、口を閉ざす社員が増えている。そんな萎縮した風潮が広がるのは、今年に入って発令された二つの人事の影響です」