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3.0

未完の「習近平思想」の将来を占う「四つの特徴」

2021年7月27日

中国共産党創立100周年演説でも強調された「新時代の中国の特色ある社会主義思想」とは、すなわち「習近平思想」だと言える。だが、もはや経済だけでは人々を奮い立たせることはできず、「中華民族の偉大な復興」をキーワードとした理念や価値観の構築は道半ばだ。習近平体制が指向する権力集約は、山積する国内問題、あるいは理論と現実のせめぎ合いに対応するために選択された一つの方法論なのである。

 習近平総書記は、2017年秋に開かれた第19回党大会において、2050年頃までに実質、アメリカに並ぶことを宣言し、チャイナ・モデルは欧米モデルに代わる新たな選択肢となり得ると豪語し、アメリカを強く刺激した。これは「中華民族の偉大な復興」という「中国の夢」の具体的中身の説明なのだが、実は「習近平の新時代の中国の特色ある社会主義思想」、つまり「習近平思想」の重要な構成部分の一つでもあった。しかも、この「習近平思想」は、共産党にとっては憲法に当たる党規約に書き込まれた。ついにマルクス・レーニン主義、「毛沢東思想」、「鄧小平理論」、「“三つの代表”重要思想」(江沢民)、「科学的発展観」(胡錦濤)と並ぶ、共産党の指導理念となったのだ。

 脚注的に言えば、こういう“指導理念”が論理的、体系的に一冊の本になっているわけではない。いろんな場面での指導者の発言を集めたものであり、その発言集は何冊にもなる。それを理論担当者や研究者が論理的、体系的なものとして説明する。鄧小平の時代は、やってみて結果が出れば正しいというので大胆かつ次々と新しいことを試みた。それをマルクス・レーニン主義、「毛沢東思想」と整合性のある理論に仕上げろと言うのだから、理論担当者は大変だろうなと心から同情したものだ。毛沢東は自筆の論文として発表することが多かったが、鄧小平は事前原稿なしで話をした。しかし、江沢民以後は大体、事前に準備された原稿を読み上げるようになった。ここで中南海の理論担当部門が活躍する。すなわち中央政策研究室主任であり、現在党内序列第5位の政治局常務委員にまで昇進した王滬寧が、2002年から20年まで務め続けたポストである。つまり王滬寧は、ときの指導者の意向を踏まえて、それを理論化する上で大きな役割を果たしてきた。「習近平思想」の形成にも重要な役割を果たしていると推定できる。

「理屈と実践の力」にも注目が必要

 これまで江沢民や胡錦濤は、2期10年の任期終了時にやっと自分たちの時代に作り上げた考え方を党の指導理念に加えてもらった。江沢民の“三つの代表”は、民営企業が急速に増大し国家の重要な分野を占めるようになったのに、民営企業家が党員になれないという問題を解決するためのものであった。これで労働者の党から、全国民の党へと変貌した。胡錦濤などは、そういうものがないと指導者として格好がつかないというので「科学的発展観」なるものを作り上げた気配がある。習近平は任期途中、わずか5年で、しかも自分の名前を付けた「思想」を書き込ませることに成功した。これは、習近平への権力集中の大きな一歩であると多くのチャイナ・ウォッチャーは解説した。確かにそうだが、しかし、この見方は浅い。「習近平思想」は、2012年、自らが総書記に就任した時に中国共産党が直面していた深刻な課題に対する回答として打ち出されたものであり、習近平の「腕力」だけではなく、多くの党員を納得させる「理屈と実践の力」にも注目する必要がある。

 今振り返れば、2012年当時、中国は大きな転換点に到達していたのだ。人口ボーナスに支えられた高度経済成長は頭を打ち、下降線をたどり始めていた。経済発展が常態化し、党と国民を引っ張っていくためには、経済に代わる新たなスローガンも必要となっていた。経済発展は社会を変容させ、世代交代とともに高学歴の多様化する社会を作りだしていた。格差は拡大し、安心安全の問題といった新たな矛盾を作りだしていた。共産党の統治は、これらの矛盾にタイミング良く対応できず、腐敗も蔓延し、国民の不満は募り、社会は動揺していた。党組織自体も巨大化し、規律は散漫であり、党中央は十分に統制できないでいた。国力の増大とともに中国のナショナリズムは高揚し、しかも国粋化の傾向を強め、自己主張の強い対外強硬姿勢を求めていた。強い軍隊を作るというのは、党と国民のコンセンサスであった。急速な経済発展は、軍事力の急速な増強を可能としていたが、人民解放軍そのものは、現代戦を戦えない、時代遅れの腐敗まみれの組織に成り果てていた。中国は、鄧小平が明確に語ったことのない世界に足を踏み入れており、経済重視だけではやっていけない党と国家の大掃除の必要に迫られていたのだ。……

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