「バイアス」という言葉は、今ではビジネスの現場などで普通に聞かれるようになった。
この言葉が「先入観」や「偏見」といったニュアンスで使用されるようになった起源には、ひとつの論文がある。心理学者のダニエル・カーネマンとエイモス・トヴェルスキーが1974年にサイエンス誌に発表した「Judgment Under Uncertainty: Heuristics and Biases (不確実な状況下での判断:ヒューリスティクスとバイアス)」である。人間の思考の系統的な偏りを研究した二人は「行動経済学」の創始者となり、心理学者にもかかわらず、カーネマンは2002年にノーベル経済学賞を受賞した(トヴェルスキーは1996年に死去)。その後にカーネマンが発表した『ファスト&スロー』(邦訳は早川書房刊、原著2011年)は世界的なベストセラーとなった。
そのカーネマンが、法学者であり行動経済学関連の著書も多いキャス・サンスティーン、そして、戦略思考や意思決定の研究者であるオリバー・シボニーと共に発表した新著が『Noise: A Flaw in Human Judgment(ノイズ:人間の意思決定の欠陥)』だ(2021年5月刊)。『ファスト&スロー』の続編とも呼べる一冊である。本書では「バイアス」から一歩進み、「ノイズ」について論じられている。
ノイズとは何か?
「ノイズ」とは、組織や個人間で発生する、判断のばらつきを指す。本書では「バイアス」と「ノイズ」との違いを射的にたとえて説明する。的の中心を狙って撃っているのに毎回同じ方向に外れるならば、そもそも銃口が曲がっているかもしれない。これが「バイアス」だ。一方で、決まった法則が無くランダムに的を外している場合、そのばらつきが「ノイズ」である。……