2022年3月31日、ホームセンター大手のカインズは東急ハンズを買収した。カインズは東急ハンズを「パートナー」と位置づけ、当面は屋号も維持する方針だが、東急ハンズは2020年12月末に三宮店(1988年3月開店)、2021年10月末に池袋店(1984年10月開店)を閉店しており、2021年12月22日に買収のニュースが報道された時は「昔ながらの東急ハンズ」を知る人びとを残念がらせた。そこで本稿は同社の「思想」とその歩みを振り返り、そもそも「昔ながらの東急ハンズ」とはいかなるものであったのかを明らかにしたい。
東急ハンズの「思想」:手の復権
東急ハンズといえば、緑色の大きな手のマークである(写真①)。東急不動産の子会社としてスタートした東急ハンズは、1976年に藤沢店、1977年に二子玉川店、1978年に渋谷店、1983年に江坂店と町田店、1984年に池袋店を開店した、DIYやクラフト、生活用品などを扱う「専門量販店」である[1]。
設立の立役者は松尾英男(当時の東急不動産社長)と浜野安宏(浜野商品研究所)であり、五島昇(当時の東急グループ総帥)の「やってみろ」の一言でスタートしたという。藤沢店と二子玉川店での実験を経て、1978年に渋谷店を開店した東急ハンズは、「手の復権」をコンセプトに掲げ、「素材と道具と部品の専門店」を目指し、「徹底した相談販売」が特徴であった[2]。
それでは、なぜ東急ハンズは「手の復権」をコンセプトに据えたのか。それは戦後日本が豊かになった大量生産大量消費の画一的な生活から、消費者一人ひとりの主体性を取り戻そうとしたからである。創業当時の東急ハンズは「量産された画一的なモノが生活を覆い、使い捨てがよしとされた時代」に問題意識を持ち、「自分の自由意思で、自在にモノを選ぶ」人びとを応援しようとした[3]。完成品を漫然と購入するのではなく、素材と道具と部品をじっくり吟味し、自分らしい生活を創り上げること。大量生産大量消費の時代に「手の復権」を主張することは、機械的な産業化を突き進める近代社会において「人間らしさ」を回復することだったのである[4]。……