山が好きで、今年は夏から秋にかけて四カ所ほど登った。いずれも日帰りで登れる山である。事前に山登りアプリで地図を確認してルートを決め、天候も直前まで確認して向かった。それでも毎回予想外のことは起きる。思っていたよりも道が険しい、登山道を見失う、山頂の気温が低く体が冷える。山では、このすべてが遭難の要因となり得る。そして、命の危険にも繋がるのだ。
山岳遭難の件数が年々増えていることも耳にしている。決して気を抜いているつもりはない。だが本書を読み進めれば進めるほど、遭難をいかに自分事として考えられていなかったかを突き付けられた。思い出した時にしか山岳保険に入らず、家族には「山行ってくるね」としか伝えていない。遭難の可能性をリアルに想像できていなかったのだ。
本書『「おかえり」と言えるその日まで 山岳遭難捜索の現場から』(中村富士美、新潮社)は、山岳遭難の捜索現場の実際の様子を綴った一冊。著者は看護師であり、民間の山岳遭難捜索チームの代表として、捜索活動および行方不明者家族のサポートを行っている。
地元の小学生が遠足で登るような里山で遭難者2名の遺体を発見したことや、10年も通うほど慣れた人の丹沢での遭難、2年以上かけた捜索など、実例をもとに捜索の過程が描かれるのだが、地道な捜索方法に頭が下がる。遭難者が行ったとされるルートを実際に歩き、道迷いや滑落のリスクが高い場所を探ったり、一般の登山客に「何か見つけたら教えてください」と声を掛けたり、ネット上で同じ日に同じ山を登った人を探し出して、話を聞いたりもする。……