連載|Foresight

Vol. 261

「彼女だけは離れない」と呟くトランプの関係幻想と物質主義

2026年8月23日


<span>「彼女だけは離れない」と呟くトランプの関係幻想と物質主義</span>
トルコからの帰国にあたり、暗殺を恐れて軍用機に乗り換えたトランプ大統領はハープ補佐官の同乗を許したという。「おとり」になった大統領専用機にはルビオ国務長官やベッセント財務長官らが残った[イラン戦争で戦死した兵士の遺体を出迎えるトランプ大統領とハープ補佐官=2026年7月22日、アメリカ・デラウェア州ドーバーのドーバー空軍基地](C)REUTERS/Evan Vucci

 ドナルド・トランプ米大統領の女性補佐官、ナタリー・ハープ氏の存在が改めて脚光を浴びています。民主党のジョン・オソフ議員が「大統領は仕事をしたくないのだ。ボールルームを作り、ナタリーと旅行したがっている」と皮肉ったことがきっかけで、共和党は不適切な関係を示唆した性差別などと反発しています。

 35歳のハープ氏は以前にもメディアに注目された時期があり、その時は2024年大統領選のスタッフとしてトランプ氏に宛てた信仰告白のように熱烈な手紙や、トランプ氏が求める情報をいつでも紙で渡せるようにと常にポータブルプリンターを持ち歩く姿が話題でした。オソフ氏発言は選挙集会での喝采狙いもあるので脇に置き、民主党側はハープ氏がトランプ氏に届く情報や発信する情報を自在に管理できる点を批判します。

「大統領に何かを届ける最短ルートは大抵の場合、ハープ氏経由だという。政権に近いある人物は、彼女の携帯電話番号はトランプ氏のものより貴重だと語った」と、米「ウォールストリート・ジャーナル」紙は伝えています。のみならず、ハープ氏はトランプ氏のあの独特な文体を会得してSNS投稿も代行し、スキャンダルになったオバマ元大統領夫妻を類人猿に見立てた動画やトランプ氏をキリストに見立てた画像も、大統領の指示を受けて投稿したとされています。

 トランプ氏は「お前たちはみな私のもとを去って金もうけに走るだろうが、彼女(ハープ氏)だけは私から離れない」と語ったとのこと。“不適切な関係”なのかどうかはよくわかりませんが、こうした言葉の根底に蟠っているのは、個人崇拝型の統治を進めるトランプ氏の消し難い不安感なのかもしれません。

 個人崇拝型の統治は、権力集中には強い。だが、その同じ仕組みが政権を脆弱にもする。成功も失敗も全部リーダー本人に帰属してしまうと、米プリンストン大学のヤン=ヴェルナー・ミュラー教授は、最近のガーディアン米国版のコラムに記しています。イラン攻撃に出口が見えず、金融市場が不安定化し、支持率が再び低迷し、外的世界への統制感が失われるにつれて、トランプ氏は自分が忠誠を確認できる(と判断する)少数の人々への依存を強め、意のままに作り替えることができる物理的環境への執着が強まっているように感じます。

 年内の会談実現を模索し「I understand him, he understands me(私は彼を理解している。彼も私を理解している)」と評した北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)総書記しかり、ホワイトハウスのイースト・ウィングを壊して作るボールルームしかり、あるいは軍艦に自分の名前を残すもしかり。イランに対する「前例のない規模の経済戦争」の指揮をとるスコット・ベッセント財務長官もまた、トランプ氏の信任が異例の担務集中という形で表れている人物でしょう。しかしそのベッセント氏の足元、米財務省では組織の責任が拡大するにつれ、幹部人材の離職が進んでいるとも伝えられます(詳細、後出)。

 今週は米韓軍事合同演習の縮小を打ち出し迷走するトランプ政権のアジア政策、国際刑事裁判所(ICC)の赤根智子所長らに対する米国の制裁など、5本の記事・論考をピックアップしました。皆様もぜひご一緒に。

Trump's Twin Blunders【Howard W. French/Foreign Policy/8月21日付】

「ここ数日、東アジアと中東で起きた出来事は特異なものであり、息を呑むほどと表現していい、驚くべきものだ。さらに注目すべきは、これら2つの出来事が結びついている、その経緯である」

「ワシントンとソウルが韓国で実施する大規模な年次合同防衛演習が始まったばかりだというのに、[大統領ドナルド・]トランプは火曜[8月18日]、事前の予告もなく、その演習の期間を半減させるよう命じた。これに対し、韓国の趙顕[チョ・ヒョン]外相は自国側の驚きを隠そうともしなかった。『トランプ大統領が明らかにしたことについて、わが国政府も米国当局者も事前に知らされることは一切なかった』と彼は述べた。『事前の通知は一切受けていない』」

「しかし、この件には、ソウルとの協議の欠如や外交上の礼儀の欠如以上の背景があった。トランプは自身の決定について[略]、背後にある理由をほのめかした。わずか数センテンスの中で彼は北朝鮮指導者の金正恩との架空の友情に言及。[略]韓国大統領の李在明[イ・ジェミョン]がペルシャ湾での米軍の作戦支援を拒否したことに対する憤りが、自身の動機の一因となった可能性を示唆した」

 米「フォーリン・ポリシー」誌コラムニストで同コロンビア大ジャーナリズム大学院教授のハワード・W・フレンチは、同誌サイトに寄せた「トランプの双子の大失策」(8月21日付)で、米国の「アジア回帰(ピボット)」政策の破綻を、中東への対応と絡めて厳しく批判する。

おすすめの記事

すべて見る
戻るボタン 次へボタン

注目の特集

すべて見る
戻るボタン 次へボタン

おすすめの電子書籍

すべて見る
戻るボタン 次へボタン

おすすめの動画

すべて見る
戻るボタン 次へボタン

ニュースレターを購読する

新潮QUEは、「問う力」を養っていくためのサブスクリプションサービスです。

無料登録する