今後の中東情勢の行方を大きく左右するイスラエルの総選挙が10月27日に実施されます。「ネタニヤフか、反ネタニヤフか」以外に対立軸はないと評されるように、2023年10月7日のハマスによる襲撃以降は世論の右傾化が進み、パレスチナ和平は争点になりにくい状況です。いわばベンヤミン・ネタニヤフ首相(76)への信任投票の構図ですが、ここで「10月7日を招いた責任」を問うて有力な対抗馬になっているのが、中道野党「ヤシャル」を率いるガディ・アイゼンコット氏(66)です。
「兵士だった息子をハマスとの戦闘で亡くした元イスラエル軍参謀総長」というアイゼンコット氏の背景は、ネタニヤフ氏の数々の汚職疑惑や「米フロリダ在住のポッドキャスターの息子」という皮肉なアイコンと対比され、誠実さや公共に奉仕する人物という政治的信用を生んでいます。この誠実さのイメージは、モロッコ移民の息子というアイゼンコット氏の出自とも相まって、伝統的にはネタニヤフ氏の与党「リクード」を支持する傾向が強いミズラヒ層(中東および北アフリカ系ユダヤ人)にも支持を広げる要因になっています。
ごく直近の世論調査では中道右派票の分散があり、ネタニヤフ氏の支持もやや盛り返していると伝えられます。アイゼンコット氏の首相就任が既定路線とも言えないのですが、まずは“アイゼンコット政権”を想定したイスラエル関連論考を海外主要メディアは取り上げています。終わりなき戦争を続けるイスラエルの安全保障政策は、大枠では新政権でも変わらないとの見方が一般的ながら、それでも変化の糸口はありえないのか。米トランプ政権との関係はどうなるのか。また、シリアを挟んで対峙するイスラエルとトルコの地政学的緊張関係は何がレッド・ラインになりうるのか。
今回はこうしたイスラエルに焦点を合わせた記事論考に加え、米中間選挙の大きな焦点になっているデータセンター建設をめぐる議論など7本を集めました。英「エコノミスト」誌は、データセンターは「技術革新や富の集中、そして米国民のデータを収集する企業の影響力の拡大に対する広範な懸念の具体的な標的」だとの識者のコメントを紹介しています。つまり、「もうなんだか未来がぜんぶ不安だから嫌」ということなのかもしれません。
地域住民の建設反対運動に対して、「電力代は上げさせない。水も大丈夫だ」と説得に乗り出すドナルド・トランプ大統領ですが、データセンター建設問題は「NIMBY(我が家の裏庭にはお断り)」対策だけでは解決されない根深いものがありそうです。新潮QUE編集部が熟読したい海外メディア記事、皆様もぜひご一緒に。
Can Israel End Its Forever Wars? 【Amos Harel/Foreign Affairs/9月2日付】
「3年にわたる絶え間ない戦争を経て、来月のイスラエル有権者との対決に備えるなか、ベンヤミン・ネタニヤフ首相は[略]多大な人的・物的犠牲は言うまでもなく、米国やその他の国々からのイスラエルへの支持が失われていることさえも無視し、永遠の戦争の遂行を公然と明確に支持している。[略]このため、世論調査でネタニヤフを上回っている退役将校、ガディ・アイゼンコットが彼を破ることができた場合、この強硬路線がどれほど変化するのか、多くの人が注目している」
「典型的な中道派であるアイゼンコットはこれまで、首相に対する批判において率直、かつ、ときに辛辣な姿勢を見せてきた。しかし、イスラエル史上最も長い戦争を終わらせるという曖昧な発言を除けば、彼は概して自身の国家安全保障戦略について詳細に言及することを避けてきた。ガザのハマスへの対応など一部の問題に関しては、彼はネタニヤフよりも強硬な姿勢を見せている。また、イスラエルにとって政治的に最も火薬庫となる問題であるパレスチナ人との紛争の将来について問われると、彼は拘束力のある約束を避けるよう、きわめて慎重を期してきた」
10月27日に行なわれる総選挙で、ネタニヤフ首相の率いる与党・リクードは第1党から転落する現実的な可能性が生じている。連立政権の枠組みが変わった場合、“次の首相”に有力視される中道政党「ヤシャル」党首のアイゼンコットは、イスラエル軍参謀総長を経て政界入りし、ネタニヤフ政権でも無任所相などを務めたことのある人物だ。