連載|Foresight

Vol. 268

ただの選挙対策では済まない米ロ「ディーゼル・ディール」

2026年10月11日


<span>ただの選挙対策では済まない米ロ「ディーゼル・ディール」</span>
欧州は対ロ制裁を強化する方針を確認した[ウクライナを訪問したドイツのフリードリヒ・メルツ首相(左)と記者会見に臨むゼレンスキー大統領(右)=2026年10月4日、キーウ](C)REUTERS/Thomas Peter

 10月9日、ドナルド・トランプ米大統領はロシアのウラジーミル・プーチン大統領との電話協議を経て、ロシア産ディーゼル燃料を米国および国際市場に供給することで合意しました。また同日、米財務省はロシア産ディーゼルの取引を2027年4月7日まで認める一般許可も発行しました。

 中間選挙まで1か月を切るなか、イラン戦争の煽りで高騰する燃料価格を抑えようとトランプ政権が選んだこの対応について、実際の米国内における価格引き下げ効果はあまり期待できないと指摘されます。しかしロシアの輸出収入は増える可能性があります。ウクライナを攻撃するロシアの戦争遂行能力を経済的に抑制するという、これまでの対ロ制裁政策が転換されるのかが注目されます。

 中間選挙では上下両院とも民主党が多数を握るシナリオが現実味を増し、仮にそうなれば制裁緩和の撤回を求める圧力は高まりますが、一般許可を取り消せるのは基本的にはトランプ政権。その延長にも議会の事前許可は不要です。

 トランプ政権は特に昨年以降、ウクライナ和平交渉と並行して、ロシアとのエネルギー協力の模索に傾いてきました。2025年8月15日の米ロ首脳会談に合わせて、プーチン大統領は、ロシア極東のサハリン島北東沖で進められている大規模な原油・天然ガス開発プロジェクト「サハリン1」の権益を外国企業が再取得できるようにする大統領令に署名しました。これに先立ち、米石油大手エクソンモービルが権益復帰に向けてロシアのエネルギー大手ロスネフチと秘密裏に協議を進めていたとされています。また、ロシア北極圏でのLNG(液化天然ガス)開発事業「アークティックLNG2」などのプロジェクト向けに米国企業が製造設備を供給する案や、米国がロシア製の原子力砕氷船を購入する構想も協議されたと伝えられます。

 今回のディーゼル合意の直前には、バルト海を通じてロシアとドイツを結ぶ天然ガスパイプライン「ノルドストリーム」事業に米国の投資家が参加する構想をめぐり、トランプ大統領の娘婿ジャレッド・クシュナー氏や、ロシアの対外投資・経済協力を担当するキリル・ドミトリエフ氏らの間で交渉が進められた模様です。また、ロシア石油大手ルクオイルが保有する海外資産を、米国・カタール・UAE(アラブ首長国連邦)の投資家を含む企業連合が取得する案が検討されているとも報じられました。

 こうした動きの背景に、エネルギー関連の取引機会を提示して和平を促すという発想を見ることは可能ですが、ロシアが実際に和平条件で譲歩するかどうかは別問題。まして今回は、ロシアが和平で譲歩を示す前に、米側が制裁適用除外を実施した形になりました。現時点で米ロの包括的なエネルギー協力が成立したわけではないとはいえ、このディーゼル合意は、単なる「選挙対策」以上の危うい重みがあるはずです。

 今週はこの米ロの動きの詳細を伝えるものに加え、先月の上院選で極右・国民連合(RN)が勢力を伸ばし政治的不透明感がさらに高まったフランス情勢、トランプ政権が打ち出した死刑執行のライブ配信をめぐる議論など、10本の記事・論考をピックアップしました。

 皆様もぜひご一緒に。 

Trump’s Red-Dye Diesel Plan Has a Major Flaw【Keith Johnson/Foreign Policy/10月6日付】

「米国の中間選挙をわずか1か月後に控え、高騰する燃料価格への懸念を強めていたトランプ政権は、月曜[10月5日]の夜遅く、苦境に立たされているトラック運転手や農家のためにディーゼル燃料を少しでも安くしようと新奇な大統領令を出した。しかし、これが役立つことは、ほぼ間違いなくない」

 このように断じるのは、米「フォーリン・ポリシー」誌のスタッフライター、キース・ジョンソン。「大きな欠陥があるトランプのディーゼル燃料対策」(同誌サイト10月6日付)で、この策は「最後の神頼み的(hail-mary)」だと強く非難する。

 イラン戦争の影響で米国のディーゼル燃料は値上がりが加速しており、インフレ亢進の象徴として中間選挙の大きな争点になっている。米国ではディーゼル燃料には公道走行向けの有税商品と農林業・鉱業などにおいて公道以外で用いられる無税商品の2種類があり、区別のため、無税版は赤く着色されている。

 今回の大統領令は、この赤い無税版着色燃料を一般用途ユーザーに販売することを一時的に許可する内容。これにより「理論上はディーゼル燃料1ガロンあたりの価格が24セント下がることになる」。この措置の対象は連邦税分で、さらに各州が州税の免除にまで動けば、値下がり幅はさらに拡大するという。

 だが、この政策には多くの問題がある。

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