今年2月11日、ホワイトハウスを訪れたイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、ドナルド・トランプ大統領と政権の高官たちに対してイランに関する極秘プレゼンテーションを行いました。
ネタニヤフ氏はビデオ通話で参加した対外特務機関モサドの長官らとともに、イランに政権交代の機運が高まっているとして、「弾道ミサイル計画は数週間で破壊できる」「ホルムズ海峡の封鎖はない」「イランが近隣諸国にある米国の権益に打撃を与える可能性も極めて低い」などの分析を伝えました。攻撃を遅らせれば遅らせるほど、行動の代償は増大するとも主張したとされます。
2月28日のイラン戦争開戦に至るトランプ政権の内幕を伝えた米「ニューヨーク・タイムズ」紙の報道(「How Trump Took the U.S. to War With Iran」/2026年4月7日付)では、全面戦争に否定的な側近たちが、イランの早期降伏を想定するトランプ大統領の開戦論に押し流されて行く姿が描かれます。
ネタニヤフ氏の示した政権転覆シナリオについて、ジョン・ラトクリフCIA長官は「茶番」と評し、マルコ・ルビオ国務長官も「でたらめ」と発言。米軍制服組トップのダン・ケイン統合参謀本部議長は、大規模攻撃が米国の迎撃ミサイルの備蓄を大幅に減少させる懸念をトランプ大統領に伝えました。他方、ピート・ヘグセス国防長官は「いずれイランに対処しなければならないのだから、今やってしまえばよい。作戦は一定期間内に遂行できる」という姿勢でした。
ネタニヤフ首相の訪米時には外遊中だったJ・D・バンス副大統領は、攻撃に最も強い懸念を示したものの、最終的には「目標を迅速に達成するためには圧倒的な武力を用いるべきだ」として大統領の意向に沿ったとされます。
米・イラン双方が攻撃の応酬を再開する中、海外メディアでは戦略研究の大家ローレンス・D・フリードマン氏の論考(詳細、後出)など、武力攻撃の効果に懐疑の視線を向ける議論が改めて注目されています。
「なぜ、クラウゼヴィッツの基準――すなわち、戦争の開始者が明確な政治的目的を掲げ、かつ妥当な代償でそれを達成できた――を満たす戦争を見つけるのが難しいのだろうか?」と問うのは、米「フォーリン・ポリシー」誌コラムニストのスティーブン・M・ウォルト氏(詳細、後出)。これに対するウォルト氏の回答は、ロシア・ウクライナ戦争以降の国際安全保障をめぐる環境変化を端的かつ巧みに示します。
イラン戦争長期化の先に何が想定されうるのかについては、本誌で19日に公開した池内恵・東京大学教授による『米国が「南爆」で狙うホルムズ海峡管理権をめぐる「覚書の書き換え』もご参照ください。
今回はこのほか、ウクライナだけでなくイラン戦争においても見え始めた戦場での兵器の技術革新、海上民兵などを使った中国の西太平洋進出に対抗する米沿岸警備隊の動きなどの記事・論考をピックアップしました。皆様もぜひご一緒に。
The Age of Forever Wars【Lawrence D. Freedman/Foreign Affairs/雑誌版2025年5・6月号、オンライン公開同年4月14日付】
「奇襲攻撃によって決定的な勝利を収められるという考えは、19世紀に軍事思想に定着し始めた。しかし、奇襲攻撃を仕掛けた軍隊は、戦争を早期かつ満足のいく形で終結させることがいかに困難であるかを、繰り返し示してきた」
実例は枚挙に暇がない。第一次および第二次世界大戦からベトナム戦争、アフガニスタン戦争を経て最近のガザ侵攻、ロシア・ウクライナ戦争、イラン戦争に至るまで。
「しかし、こうした長期にわたる紛争の長い歴史があるにもかかわらず、軍事戦略家たちは依然として、戦闘開始から数日、あるいは数時間以内にすべてが決着すると想定される短期戦争[short wars]を前提に思考を組み立て続けている」
それは、第三次中東戦争(六日間戦争)や第三次印パ戦争から湾岸戦争、直近では米国によるベネズエラ侵攻といった、いくつかの成功事例を根拠としている。