連載|Foresight

Vol. 260

朱鎔基氏の功績が照らし出す中国経済「四半世紀の昏さ」

2026年8月16日


<span>朱鎔基氏の功績が照らし出す中国経済「四半世紀の昏さ」</span>
元指導者への追悼は現指導者への批判へと転じかねない[朱鎔基元首相の死去を伝える中国・北京市内のスクリーン=2026年8月12日](C)REUTERS/Maxim Shemetov

 12日に亡くなった中国の朱鎔基元首相は多くの場合、市場化と対外開放を大胆に進めた改革の指導者と評されます。ただ、その改革の成功が、現在の中国経済が抱える苦境の遠因になった側面も指摘できるように思います。

 たとえば1994年の分税制改革。中央政府の財政基盤を立て直すために、税収を中央に集める一方で、教育や医療、インフラ整備など多くの支出責任は地方に残されました。財源不足を補いたい地方政府は土地使用権売却収入への依存を強め、これが後の不動産バブルと地方政府債務問題の起点となったとも言えます。

 1998年の住宅制度改革も同様です。勤務先が住宅を低廉に提供する制度を廃し、住宅の商品化を進めたこの改革は、不動産市場を大きく膨らませることになりました。もちろん住宅建設によって景気は押し上げられ、人々の家計資産も急増しました。その半面、不動産に大きく依存する経済構造がさらに強化されることにもなりました。

 2001年のWTO(世界貿易機関)加盟も朱鎔基氏の代表的な功績ですが、グローバリズムの恩恵を享受した中国が輸出主導型の経済成長を追求する反面で、個人消費の拡大は思うようには進みませんでした。これが現在の内需の弱さと過剰生産能力問題に結びつきます。

 これらはもちろん、すべて後出しじゃんけんの難癖です。有効な薬に副作用があるように、ひとつの経済問題への処方箋は必ず次の課題を生むでしょう。1990年代の中国が直面していた難問を巧みに解決した朱鎔基氏の功績は否定できるものではありません。

 ただ、その功績が明るく照らされれば照らされるほど、朱鎔基氏が首相を退任してからの四半世紀、新たな成長モデルを見つけあぐねている中国経済の昏さも意識されます。米「ニューヨーク・タイムズ」の袁莉(Li Yuan)記者は、日本語に訳せば「ある中国指導者の死に際して偲ばれたのは、もっと希望に満ちていた時代」と題するコラムを書いていました(詳細、後出)。

 米「フォーリン・アフェアーズ」誌には、「次の国際経済危機はメイド・イン・チャイナかもしれない」という論考が掲載されています(詳細、後出)。中国の過剰生産能力を受け止める力はもう世界経済には残されておらず、輸出が細った中国はさらなる景気悪化に見舞われ、そのショックは他国経済にも伝播するという指摘です。これを防ぐためには、1985年のプラザ合意にも似た“人民元高誘導での国際合意”が必要だと唱えるのは、米外交問題評議会会長のマイケル・フロマン氏。中国の輸出攻勢を問題視するものから、さらに一歩進んだ危機認識へと議論の焦点が移りつつあることを感じます。

 今週は中国経済に関する記事・論考を中心に、米国が抱えている「水問題」なども加えて7本をピックアップしました。皆様もぜひご一緒に。

Former Chinese premier Zhu Rongji passes away at 98【Xinhua/Global Times/8月12日付】

「中国の朱鎔基元首相が水曜[8月12日]の午前11時06分、北京で病気のため98歳[数え年。満年齢では97歳]で死去した。/[略]中国共産党中央委員会、全国人民代表大会常務委員会、国務院、中国人民政治協商会議全国委員会が共同で発表した訃報は朱を、優れた党員、長年にわたりその忠誠が実証された共産主義の闘士、傑出したプロレタリア革命家、政治家、そして党と国家の指導者として称えた」

 中国の「環球時報」の英語版「グローバル・タイムズ」のサイトに掲載された国営新華社通信による朱元首相の追悼記事、「朱鎔基元首相、98歳で死去」(8月12日付)は、このように始まる。

 そこでは彼の経歴とともに、功績として次のような項目が挙げられる。

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