※本稿は「新潮45」2005年6月号に掲載された特集を元に再構成したものです。また、年齢や肩書、年代表記等は当時のものです。(文中敬称略)
小綺麗な男女の服装
若い男女を乗せたハイヤーが、でこぼこの峠道を慎重に踏みながら天城トンネルに達したころには、日はとっぷりと暮れ、辺りは漆黒の闇が佇むばかりだった。
昭和32(1957)年12月4日、時刻は午後5時半を回っていた。修善寺駅からの客であった男女は、トンネル口で車を止め、運転手に2000円を手渡している。実際の料金は1380円――。
ふたりはトンネル脇から延びる急峻な登山道に、すぐに足を踏み入れようとした。小綺麗な男女の服装、足下を見た運転手に一抹の不安がよぎる。とても登山道の先、八丁池まで歩き着ける格好ではない。……