連載|Foresight

Vol. 265

現状維持ができれば成功? 米中首脳会談に「低い期待値」しかない理由

2026年9月20日


<span>現状維持ができれば成功? 米中首脳会談に「低い期待値」しかない理由</span>
ニクソン、キッシンジャーと周恩来のような「魔法」を期待するのは誤りだという声も[2026年5月15日、中国・北京の中南海を訪れたトランプ氏と習氏](C)REUTERS/Evan Vucci/Pool

 習近平・中国国家主席の訪米を控え、米中の戦略的競争関係をめぐる議論が改めて盛んになっています。ドナルド・トランプ大統領と習氏の会談は9月24日に実施されます。両者が目指すのは、まずは経済関係の安定化。最大の実務案件は、昨年10月に韓国・釜山で行った首脳会談で実現した貿易・技術分野の“休戦”を、どこまで、どのように延長するかになるでしょう。

 現在の休戦は11月10日が期限です。中国側はトランプ政権の残り任期に近い長期延長を望む一方、米国側はまず6か月程度にとどめたい考えと伝えられます。ここが食い違う理由の一つに、米側は中国が釜山で合意したレアアース供給の約束を守っていないとみなしていることがあるようです。このレアアース・重要鉱物の問題に加え、中国による米国産農産物やボーイング機の購入、双方向の直接投資や市場アクセスなど、いわば積み残しの課題が処理されると見られます。11月3日に中間選挙を控えるトランプ政権にとっては、経済面で国民にアピールできる成果が欲しいところ。

 ただし、この首脳会談が危うさをはらむのは、経済的な成果を求めるトランプ氏が政治や安全保障を交渉材料にする可能性があるからです。その筆頭に挙げられているのが台湾。米政府は今年春に約140億ドルの台湾向け武器売却パッケージを準備したものの、この案件は現在も大統領の承認を待ち保留中です。前回、5月に北京で行われた米中首脳会談後、トランプ氏はこれについて「非常によい交渉カード」だと発言しました。台湾問題が経済案件と横断的に取り引きされる可能性を、アジアの米同盟国は懸念します。

 一方で中国は、単なる武器売却の阻止以上に、米国の台湾政策を変質させる糸口を探ることが考えられます。米国は台湾独立を「支持しない」としながらも「反対する」とまでは言わないという、政治的な曖昧さを維持しています。北京の武力行使と台北の一方的な独立の双方を抑止するといういわゆる「二重抑止」を機能させるためですが、仮にトランプ氏から「台湾独立に反対する」「平和的統一を支持する」といった表現を引き出せば、台湾の最終的地位をめぐる米国の政策的な余白は大きく縮まることでしょう。

 ほかにもAI(人工知能)をめぐる競争やリスクをどこまで管理できるか、イランとロシアを経済的に支える中国にどのような対応を迫るのかなど、「経済関係の安定化」の背後には多くの政治・安全保障のテーマが広がります。この複雑性があるゆえに、今回の会談については「現状維持ができれば成功」と見る向きが多いようです。トランプ氏と習氏はこの米中関係を変える力を備えているのか、第2次トランプ政権発足以降の両国の戦略的競争関係にはどのような優劣が生まれているのかという観点から、米フォーリン・アフェアーズ誌と同フォーリン・ポリシー誌に掲載された話題の論考をピックアップしました。

 カナダのEU(欧州連合)急接近や、独州議会選での極右政党AfD躍進を文化と歴史から読み解いた考察なども加え、新潮QUE編集部が熟読したい海外メディア記事7本。

 皆様もぜひご一緒に。

Trump and Xi Can't Stop the U.S.-China Spiral【Orville Schell/Foreign Affairs/9月16日付】

「20世紀における米国の外交上の画期的な成功は、危険なほど高い期待を生み出した。[略。第二次世界大戦での独日の無条件降伏、NATOの創設、キューバ危機の解決、冷戦終結など]こうした勝利により多くのアメリカ人は、一見解決不可能な政治的膠着状態でさえ、有能な指導者たちなら断固とした方法で打破できると想像するようになった」

「この期待は、特に中国ウォッチャーの間で根強い。米中外交が最良の形で展開しうるという彼らの認識は、1972年にリチャード・ニクソン米大統領とその国家安全保障担当補佐官であるヘンリー・キッシンジャーが、中国の毛沢東主席および周恩来首相との1週間にわたる会談を通じて世界の地政学的地図を書き換え、冷戦を、主に二極対立の構図から三極対立へと転換させた、あの画期的な瞬間に形作られている。その後、1979年には、ジミー・カーター米大統領が、北京との正式な外交関係を樹立し、中国の最高指導者である鄧小平をホワイトハウスに迎え入れることにより、劇的な形で中国への扉を大きく開いた」

「今日、米中関係がますます対立的な状況に陥るなか、『偉大な人々』によってもたらされる新たな突破口への憧れは、とりわけ強まっている。ドナルド・トランプは米大統領は、自分だけがそのカリスマ性によって、米国が必要とするような合意を成立させることができると豪語し、そうした願望に拍車をかけてきた」

 米アジア・ソサエティ米中関係センターのディレクター、オーヴィル・シェルは、同「フォーリン・アフェアーズ」誌サイトへの寄稿(9月16日付)を、このように書き起こす。だが、そのタイトルは「トランプと習は米中スパイラルを止められない」というものだ。

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