ドナルド・トランプ米大統領のマルチラテラル(多国間)嫌いは、もう指摘するまでもなさそうです。ただ、マルチの枠組みはアメリカがその参加国に影響力を行使しうる場でもあります。いわば、いくつもの国に網をかけ、おかしな方向に行かないように歯止めをかける保険のようなところがあるわけですが、これを「保険料が無駄」と次々解約している格好です。
5月13日から16日の中東歴訪でも、マルチの協議はGCCとの首脳会合だけにとどめ、経済協力に焦点を絞った個別ディールに専念しました。詳細は村上拓哉氏(中東戦略研究所シニアフェロー)の論考をご覧いただければと思いますが、ガザとイランに加え、シリア新政権や米-イスラエルの関係悪化など、中東情勢のアクターの利害は一層、錯綜してきています。ここでマルチの枠組みを自ら手放すならば、それは悪手に思えてなりません。
21日にホワイトハウスで行われた南アフリカのシリル・ラマポーザ大統領との会談は、「白人へのジェノサイドだ」と言って紙芝居のように繰り出してみせた記事の不正確さが話題を集めました。この会談は、今年11月に南アフリカで開催されるG20首脳会議のボイコット問題と一体でもあります。G20を使ってグローバルサウスを牽引しようとする南アに対し、トランプ政権は“ジェノサイド”が止まらなければ参加しないとの構えを見せています。
アメリカのマルチからの退出を逆手にとるかのように、中国は5月20日から21日にかけてWTO(世界貿易機関)本部で開催されたWTO一般理事会で多国間主義の重要性を強調しました。トランプ政権はアメリカ企業の海外売り上げに重しとなり、代わって“COOL”になっているのは中国だとの声もあります。「アメリカ・ファースト」を貫くためには、アメリカが世界に関与し影響力を保持し続ける必要がある。多くの識者が指摘してきたこの逆説が、リアルな矛盾として浮上しています。……