今週もお疲れ様でした。ソ連の記憶が鮮明な世代の読者にとっては、指導者としてまずイメージが浮かぶのは16年以上も書記長の地位にあったレオニード・ブレジネフではないでしょうか。記憶の中を掘り起こせば、そのイメージはまず四角い。マッチ箱かいな? と思うシルエットの指導者が去り、ぼんやりしているうちに交代した気がする2人の書記長を経て、ミハイル・ゴルバチョフが登場した時にはなんと言ってもその丸さと柔さが新鮮でした。
英首相マーガレット・サッチャーが“話せる男”として西側社会にプロデュースしたゴルバチョフですが、一方で「東欧・中欧という戦略的に重要な地域に対する持続可能なビジョンがなかった」とアメリカ・カトリック大教授のマイケル・キンメイジは指摘します。「聖なる愚か者」は失敗を成功として、そして成功を失敗として経験する。不変と思われた秩序を破り、冷戦の物語を結末へと展開させたゴルバチョフは、まさにトリックスターさながらに正誤を超えて世を去りました。フォーサイト編集部が週末に熟読したい記事2本、皆様もよろしければご一緒に。Hope you have a great weekend!
The Gorbachev Vacuum【Michael Kimmage/Foreign Affairs/8月31日】
「ゴルバチョフはまっとうな人間だったかもしれない。しかし、政治家としては破滅的なまでに駄目だった。自信に満ち溢れ、知的な才能に溢れ、威厳に満ちた態度にもかかわらず、ゴルバチョフは自分が何をしているのか、まったく理解していなかった」
旧ソビエト連邦で共産党書記長と大統領を務めたミハイル・ゴルバチョフが8月30日、91歳で亡くなった。冷戦を終わらせたとされる旧東側の指導者の追悼記事は欧米のメディアにも溢れており、いま紹介した一文の引用元(「ゴルバチョフという空白」)のもそのひとつ。ロシア・欧州問題を専門とするアメリカ・カトリック大教授のマイケル・キンメイジが米「フォーリン・アフェアーズ(FA)」誌サイトに寄せた「ゴルバチョフもの」だ(31日付)。
キンメイジはロシア文化で大きな意味を持つ「聖なる愚か者」という概念を紹介。「失敗を成功として、成功を失敗として経験」するそのトリックスターぶりは、旧ソ連や周辺国において国民に自由をもたらしながら、国家の解体も招いたゴルバチョフに重なるとその姿を描き出す。「突き詰めるなら、ゴルバチョフの謎は、人間ゴルバチョフと政治家ゴルバチョフとの差異の中にある。彼らはまったく異なるふたりの人間だったのだ」としたうえで、冒頭の引用のように指摘し、次のように続ける。……