7月7日、8日のNATO[北大西洋条約機構]首脳会議に合わせて行われた米・ウクライナ首脳会談で、ドナルド・トランプ米大統領は米国製のミサイル迎撃システム「パトリオット」のライセンス生産をウクライナに許可する意向を示しました。実際に生産体制が整うまでには数年が必要であり、足元の武器供与よりもウクライナの防衛に強くコミットするとの意思表示の側面が強いようですが、これまでパトリオットの生産が認められたのは同盟国のドイツと日本のみであることを考えれば、大きな意味合いをもつ動きです。
ロシアとの停戦後の「安全の保証」を求めてきたウクライナの立場は、この1年余りで大幅に変化しています。背景にあるのは、戦場で確立された世界トップクラスのドローン(無人機)と電子戦の技術、そして前線のデータを即座に兵器改良へ反映する開発・調達システムです。これらを統合した中長距離攻撃でロシアの主要インフラに打撃を与え、その継戦能力を削いできました。被占領地の奪回には至らないものの、侵攻を食いとめていることは多くが指摘するところです。
上記のパトリオットにしても、2月末に始まったイラン戦争に投入したことで、米国の在庫は戦前の半分になったと見られます。ウクライナにライセンス生産を認めることで、サプライチェーンに組み込むメリットが見込めます。ウクライナ自身の軍事力と武器生産力が、「安全の保証」を手繰り寄せているとも言えそうです。トランプ大統領と同じくNATO首脳会議でウクライナのヴォロディミル・ゼレンスキー大統領と会談したフィンランドのアレクサンデル・ストゥブ大統領は、「NATOはウクライナを必要としている。それは、ウクライナがNATOを必要としているのと同じくらいだ」として、ウクライナの防衛産業をNATO加盟国と統合することが、将来の加盟を実現するには最善の方法だと語りました。
一方で、NATOは米国という同盟の柱が揺らいでいます。マーク・ルッテ事務総長が首脳会談に先立ち「欧州の武器発注は米国で19万5000人の雇用を維持している」とアピールするなどトランプ対策に精力を傾けた甲斐あって、今回は「前向き」な雰囲気で閉幕したと米「フォーリン・ポリシー」誌は伝えています(詳細、後出)。しかし、舞台裏で進んでいるのは、NATOの米国離れ=欧州化であるようです。それはトランプ政権がNATOに向ける冷淡さによって余儀なくされる対応ながら、「アメリカ抜きで欧州はどのように戦うのか」という具体的かつ詳細かつ長編の論考記事が有力紙(英「フィナンシャル・タイムズ」、詳細は後出)に掲載されるのを目の当たりにすると――ここでもウクライナの軍事力が重要な要素として取り上げられます――大きな潮流の変化を実感せずにはいられません。
今回はこのNATO関連のほか、トランプ政権の中南米政策の成果とリスク、追い風を生かせない米民主党の“愚かさ”など、7本の記事・論考をピックアップしました。皆様もぜひご一緒に。
[Situation Report]NATO's Waiting Game【Rishi Iyengar, John Haltiwanger/Foreign Policy/7月9日付】
「華やかな式典は幕を閉じ、世界の指導者たちは去り、アンカラの交通も平常に戻った。そして特筆すべきは、ドナルド・トランプ米大統領が[略]トルコの首都で開催されたNATO首脳会議を、前向きな雰囲気の中で後にしたことだ」
フォーリン・ポリシー誌の週刊ニューズレター、「シチュエーション・リポート」は最新7月9日号「NATOの待ちの戦略」で、閉幕したNATO首脳会議を、まずはこのように総括してみせた。
だが、同誌スタッフライターのリシ・アイエンガーとジョン・ホルティウェインジャーは、「トランプを満足させることは今年、必ずしも彼ら[欧州諸国やNATOの首脳ら]の再優先事項ではなかった」と振り返る。彼らの取材に答え、米大西洋評議会上級研究員のトーリー・タウシグ(ジョー・バイデン政権期の国家安全保障会議(NSC)欧州担当ディレクター)はこんなふうにコメントしている。