連載|Foresight

建国250周年の米国が向かう“最高”で“破滅的”な時代

2026年7月5日


<span>建国250周年の米国が向かう“最高”で“破滅的”な時代</span>
トランプ政権の改革は革命にも擬せられる[雷雨の中、建国250年記念式典の花火を見るために集まった人々とライトアップされたワシントン記念塔](C)REUTERS/Nathan Howard

 7月4日に米国が建国250周年を迎え、海外メディアでも多くのアメリカ論が掲載されています。外交における内向き志向と国内社会の分断が進むトランプ政権の米国を、改めて歴史の中に位置付ける試みが目立ちます。

「最高の時代はこれからだ(the best is yet to come)」というのはトランプ大統領のスピーチによく登場するフレーズで、4日の記念式典でもやはり使っていましたが、アメリカはいまどんな“最高”へ向かおうとしているのか。

 松原宏之・立教大学教授は「1970年代以降に起きたのは、一度失墜した共和政的な米国の復権である。それはただの政権交代というよりもニューディール体制を丸ごと転覆させる試みである」と指摘します(日経新聞電子版6月17日付「建国250年のアメリカ、せめぎ合う民主政と共和政」)。政治権力の正統性を市民の意思に置く民主政(デモクラシー)と、王ではない選ばれた代表や公職者が国家を統治するという共和政(リパブリック)は、いわば米国が建国時から内包してきた政体観をめぐる「分断」です。この分断の延長線上に、デモクラシーからどんどん逸脱していく現在のトランプ政権の動因を見る考察は、とても示唆に富むものでした。

 一方で、これをデモクラシー側の立場から見れば、トランプ大統領は破壊者にほかなりません。英エコノミスト誌はトランプ政権の振る舞いを「レッキング・ボール革命」と呼んでいます(詳細、後出。レッキング・ボールとは、建物などの解体に使われる巨大な鉄球です)。

 国内政治のみならず、第二次世界大戦後に自身が国際社会に築いてきた自由な価値観の体系も、時代遅れであり、かつ、いまや米国を攻撃する武器にすら使われているとして、徹底的な破壊に出ているのだとエコノミスト誌は捉えます。その瓦礫の中から生まれるものは何か。およそ禍々しいものになるのではないか。トランプ政権が追求する“最高の時代”に対して、極めて悲観的な視線が向けられます。

 今回はこうした米国建国250年に関するもののほか、トランプ外交戦略における「インド太平洋」の地盤沈下、イラン戦争をきっかけに形成されつつある「サウジアラビア主導の枢軸」、諜報機関が政治化され骨抜きになりつつあるイスラエル、日本のコーポレート・ガバナンス改革に後退の懸念など、熟読しておきたい7本の記事・論考を選びました。皆様もぜひご一緒に。

[Opinion]A toast to America at 250, glowing and decaying all at once【David Ignatius/Washington Post/7月2日付】

「今年の7月4日について率直に語るなら、革命を成し遂げた気骨あるアメリカ人たちは、もはや遠い歴史の記憶にすぎないことをえめざるをえない。今日の私たちは、1776年の大英帝国に反旗を翻したみすぼらしい愛国者たちより、むしろ当時の大英帝国そのものに似ている。私たちは、建国の父たちが思い描いた農民や商人による共和国ではなく、貧富の格差が甚だしい国となっている」

「250歳のアメリカは、中年の後半に差し掛かった国であり、衰退の兆候がはっきりと見受けられる。政治体制は機能不全に陥っており、政治家たちは大きな社会的・経済的問題を解決できないようだ。教育制度は壊れ、子供たちのテストの成績は低下の一途をたどっている。社会の結束は著しく失われ、ひとつではなく2つの国があるかのようにしばしば感じられるほどだ」

 独立から250年という節目を迎えた米国について、海外メディアはさまざまな切り口からさまざまな見方を伝えており、メディアの世界でも祭りが起きているかのようだ。多くの記事や論考が送り出されるのに加え、たとえば米「フォーリン・アフェアーズ」誌はこの1週間、電子版の有料記事の無料公開という大盤振る舞いに出ていたりする。

 もっとも、このメディアの祭りは、めでたさより暗さ、重さが強く感じられるような奇祭でもある。

 冒頭の引用は、米「ワシントン・ポスト」紙のコラムニスト、デビッド・イグナシウスが7月2日付でオピニオン欄に寄せた「成長と衰退が同時に進む独立250周年のアメリカに乾杯」より。このエッセイはフォーリン・ポリシー誌サイトにも転載され、あわせて多くの読者を集めている。

 「アメリカは依然として世界を魅了しているが、変化も生じている」と書くイグナシウスは、最近タイで行われたシンポジウムに参加したことに触れ、その際の体験を次のように並べる。

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