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中東地域政治の構造変動――アジ研セミナーの覚書(3)最大の懸案はトルコの不透明感

2016年11月5日

モデレーターとして、質問シートに書き込まれた質問を、講演と講演の間の短い時間に50枚ばかり急いで目を通し、分類して整理し、とりまとめて私の言葉でコメントにまとめ、各講演者への質問としたのだが、感心したのは、質問の質である。これまでは中東関連の講演会やセミナー・シンポジウムの質問というと「わたしゃね、思うんですがね、やっぱり中東問題の根元はパレスチナ問題ですよ。これについてあなたたちはどう考えるのか!」といった演説というか説教というか、どんなテーマをどんな方法で論じてもお構い無しで、長口舌を振るう質問者がいて閉口したものだが、そういうものがほとんどなかった。さすがに私が関わるイベントで「すべての根元はサイクス=ピコ協定」などと口走る(この場合は質問シートなので「筆を走らせる」か)人はいなくなった。おそらくよそのイベントでは未だにそういった議論がなされているのだろうが、それには関知しない。

従来の型にはまった議論に変わり、激変する中東諸国の内政上の課題について、そして各国の内政の変化に関与・干渉してくる地域大国・域外大国などを含む国際政治の構図と問題点について、かなり焦点を絞った、少なくとも「当たらずとも遠からず」の質問が多く出るようになった。

特に、トルコの地政学的な位置とその重要性を十分に認識した上で、エルドアン政権の強権的に見える姿勢への危惧の念や、政策や政権そのものの持続性への不安、そしてシリアやイラクでの「勢力圏」を確保するかのように見える動きへの興味・関心を示す質問が多く出た。イラン=核問題や反米姿勢、サウジ=石油や王権、といった従来から存在する一般的な関心事を超えて、トルコについて最も多くの質問が集まったことが、質問シートの印象深いところだった。シリア内戦やイラクの混乱、「イスラーム国」の出現と、それに対する掃討作戦の過程でのクルド勢力の台頭などは、結局それがシリアやイラクだけでなくトルコの内部に波及した時に、EUへの影響なども含め、重大な帰結を伴う。「本丸」としてのトルコへの関心が、聴衆の間に高まっている点が興味深かった。近年の中東地域政治の変動について報道や論評が積み重なる中で、聴衆の間にも中東の地域国際政治と地政学について、一定の「土地勘」が育ってきているのだろうか。あるいはそれはこのセミナーに集まった聴衆に限定されたことなのかもしれないが。

また、トルコを専門とする講演者の方では、そのような関心の意味を認めつつ、トルコ内部への波及についてはかなり冷静だった。これは私自身も、地域研究者としての立場からは、納得がいく。しかし同時に、より広い視野で中東地域政治を見ると、トルコも決して安泰ではないとも思う。地域研究の着実な視座と、国際政治や地政学の概念を駆使して行う推論との間を往還しながらより蓋然性の高い認識に近づいていく必要がある。……

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